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NEW請求書は33,000円。でも入金は29,937円。この3,063円の差は、値引きではなく源泉所得税です。 先日、顧問先の社長からこんな質問をいただきました。

先日、顧問先の社長からこんな質問をいただきました。

「竹澤さん、この入金なんですけど。請求書は33,000円で出したのに、通帳を見たら29,937円しか入っていないんです。3,063円足りません。値引きされたんでしょうか」

独立して2年目の方でした。取引先に文句を言う前に確認しておこう、ということで相談をいただいたのですが、これは大正解です。もし電話していたら、少し気まずいことになっていました。

答えを先にお伝えすると、こうなります。

値引きではありません。差し引かれた3,063円は、あなたの代わりに取引先が税務署へ納めた所得税です。そして、そのお金は後で戻ってきます。

順を追って説明します。

 

■ 差額の正体は「源泉所得税」

会社が個人に報酬を支払うとき、その報酬から所得税をあらかじめ差し引いて、支払う側が国に納める仕組みがあります。これを源泉徴収といいます。

会社員の給与から所得税が天引きされているのと、まったく同じ発想です。会社員でなくても、個人が受け取る報酬であれば同じ扱いになる場合があります。

対象になるのは、原稿料、講演料、デザイン料、コンサルティング料、士業への報酬など。「報酬・料金」と呼ばれる種類のものです。この社長の場合はコンサルティング料でしたので、まさに該当していました。

 

■ 3,063円という数字の出どころ

税率は10.21%です。100万円を超える部分は20.42%になりますが、まずは10.21%を覚えておけば実務では足ります。

先ほどの例で計算してみます。

・請求額33,000円の内訳:本体30,000円+消費税3,000円
・源泉徴収額:30,000円 × 10.21% = 3,063円
・実際の入金額:33,000円 − 3,063円 = 29,937円

ぴたりと合いました。

ここで、この社長にひとつお伝えしたことがあります。

請求書に本体価格と消費税を分けて書いておいてください。そうすれば、源泉徴収は本体の30,000円に対してだけかかります。

もし「33,000円(税込)」とだけ書いてあると、取引先は33,000円全体に10.21%をかけて計算します。すると3,369円が引かれる。差は306円です。

「たった306円ですか」と言われましたが、月に10件あれば年間で36,000円以上になります。しかも一度フォーマットを直せば、あとは何もしなくていい。やらない理由がありません。

 

■ いちばんやってはいけない処理

さて、ここからが本題です。

この社長は入金額の29,937円をそのまま売上として記帳していました。これが一番よくあるパターンで、そして一番まずいパターンでもあります。

なぜなら、一見すると正しく見えるからです。通帳の金額と帳簿の金額が一致するので、気持ちよく処理できてしまう。エラーも出ません。

しかし、これをやると2つの問題が起きます。

ひとつは、売上が過小になること。本来の売上は30,000円(税抜)です。3,063円は税金として先に納めただけで、売上そのものが減ったわけではありません。

もうひとつ、こちらのほうが深刻です。先に納めた3,063円が、帳簿から消えてしまうことです。

 

■ 引かれた税金は、取り戻せる

源泉徴収された3,063円は、所得税の前払いです。捨てたお金ではありません。

年間の所得が確定して、確定申告で正しい税額を計算したとき、すでに前払いしている分は差し引かれます。前払いのほうが多ければ、その差額が還付されます。

特に、設備投資をした年や経費が多かった年は、源泉徴収された金額のほうが本来の税額より大きくなることがよくあります。この場合、申告すれば戻ってきます。

逆に言えば、帳簿に源泉所得税を記録していなければ、この還付は受けられません。申告書に「すでにこれだけ払っています」と書けないからです。

冒頭の社長の場合、過去1年分をさかのぼって確認したところ、記録し忘れていた源泉所得税が10万円近くありました。決算前に気づけたのが幸いでした。

 

■ 正しい記帳のしかた

会計ソフトで処理するときは、こう考えてください。

【請求したとき】
借方:売掛金 33,000円
貸方:売上高 30,000円 / 仮受消費税 3,000円

【入金があったとき】
借方:普通預金 29,937円 / 仮払源泉所得税(または事業主貸)3,063円
貸方:売掛金 33,000円

ポイントは、入金の借方を2行に分けることです。実際に振り込まれた金額と、差し引かれた税金の金額。この2つを足して、初めて請求額と一致します。

多くの会計ソフトでは、入金の消込画面で行を追加できるようになっています。「入金額が請求額より少ない」というエラーが出たら、差額を源泉所得税の行として追加する。これで解決します。

 

■ 法人にすると、引かれなくなります

最後にもうひとつ。

源泉徴収の対象は、原則として個人への支払いです。法人への支払いには、原則として源泉徴収は行われません。

つまり、法人化した後は請求額がそのまま入金されるようになります。「法人にしたら入金が増えた気がする」とおっしゃる方がいますが、これが理由です。売上が増えたわけではなく、前払いしていた税金が消えただけです。

もし法人なのに源泉徴収されていたら、取引先の処理ミスかもしれません。支払明細を確認して、先方に問い合わせてみてください。

 

■ まとめ

・請求額と入金額の差額は、多くの場合「源泉所得税」
・税率は10.21%(100万円を超える部分は20.42%)
・請求書で本体と消費税を分けて書けば、源泉徴収は本体分だけ
・入金額をそのまま売上にしてはいけない
・帳簿に記録しておけば、確定申告で精算・還付される
・法人への支払いは、原則として源泉徴収されない

 

こういう「教科書には載っているけれど、誰も教えてくれない」種類のつまずきは、独立して最初の1〜2年に集中して起こります。しかも厄介なことに、自分では間違いに気づけません。通帳と帳簿の数字が合ってしまうからです。

「こんなこと聞いていいのかな」と思うような小さな疑問ほど、放っておくと後で大きくなります。冒頭の社長も、聞いてくださったから10万円を取り戻せました。

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自己紹介

竹澤 直樹

竹澤 直樹

運営者プロフィール

税理士、コンサルタント
東京中央税理士法人 社員税理士(役員)WTA事業部長
合同会社ライズアビリティ 代表社員
フジ設計コンサルタント株式会社他、顧問先企業の取締役、監査役を歴任

高校卒業後に税理士を目指す。大原簿記専門学校卒業後、
田上会計事務所(現 東京中央税理士法人)で働きながら、
東亜大学大学院法学専攻(修士)を修了。
2015年税理士登録

趣味は、株式投資とゴルフ
土日は犬の散歩をしながら、リフレッシュしています。
猫もいますが、エサが欲しい時しか甘えてきません。

ひとつひとつていねいに会社の数字を学ぶ

著書

「ひとつひとつていねいに会社の数字を学ぶ」
(かんき出版)

運営会社

会社名
合同会社 ライズアビリティ
代表者名
代表社員 竹澤直樹
住所
埼玉県志木市本町5-23-24 第3本吉ビル4階
法人設立年月日
令和1年6月4日
資本金
100万円