- ビジネスサポートブログ
- 「役員報酬、いくらにすればいいですか」——一人社長が最初につまずく数字
ビジネスサポートブログ
役員報酬は、決算後3ヶ月以内に決めると原則1年間変えられません。だからこそ最初の判断が効いてきます。
先日、顧問先の社長からこんな質問をいただきました。
「竹澤さん、役員報酬っていくらにすればいいんでしょうか。会社の口座にお金は残っているんですけど、全部自分の給料にしていいものなのか、よくわからなくて」
法人を作って3年目の、従業員のいない一人社長です。この質問は、独立された方から本当によくいただきます。しかも「なんとなく30万円にした」まま何年も過ぎている、というケースが少なくありません。
答えを先にお伝えすると、こうなります。
役員報酬は「会社に残す利益」と「自分が受け取る額」の配分を決める作業です。そして配分の結果を左右する最大の要因は、法人税でも所得税でもなく、社会保険料です。
順を追って説明します。
■ まず知っておきたい「3ヶ月ルール」
役員報酬には、給与にはない特殊なルールがあります。
会社の事業年度が始まってから3ヶ月以内に金額を決め、その後1年間は毎月同じ額を支払う。これが原則です。定期同額給与といいます。
なぜこんなルールがあるのか。役員報酬を自由に変えられると、利益が出た月に報酬を増やして法人税を減らす、といった調整ができてしまうからです。それを防ぐために、金額を固定させています。
期の途中で増額した場合、増やした分は経費として認められません。会社の経費にならないのに、個人には所得税がかかる。いちばん損な形です。
ですから、3月決算の会社なら6月末まで、9月決算の会社なら12月末までが、報酬を決められる期間です。この時期を逃すと、次の1年は動かせません。
■ 決め手になるのは、社会保険料
多くの方は「税金が安くなる金額」を探そうとされます。しかし、実際に金額を大きく左右するのは社会保険料です。
役員報酬を上げると、それに連動して健康保険料と厚生年金保険料が上がります。しかも、この保険料は会社と本人が半分ずつ負担します。つまり、会社の支出としても、個人の手取りとしても、両方から引かれるのです。
負担率は、健康保険と厚生年金を合わせておおむね報酬の28〜30%。労使合計での数字です。所得税の税率が5%や10%の水準にいる方にとっては、税金より社会保険料のほうがはるかに重い負担になります。
ひとつだけ、上限があります。厚生年金は標準報酬月額65万円で頭打ちになるため、報酬がそれ以上になっても厚生年金保険料は増えません。報酬が高い方ほど、負担率としては下がっていく構造です。
■ 月50万円で計算してみます
仮に役員報酬を月50万円(年600万円)にした場合を見てみます。東京都・協会けんぽ・40歳未満という前提での概算です。
・厚生年金:50万円 × 18.3% = 約91,500円/月
・健康保険:50万円 × 約9.98% = 約49,900円/月
・合計:約141,000円/月(年間で約170万円)
この約170万円を、会社と本人で半分ずつ負担します。会社が約85万円、本人が約85万円です。
本人負担の85万円に加えて所得税と住民税が引かれるので、年600万円の役員報酬に対する手取りは、おおよそ年450万円前後。月にすると37〜38万円というイメージです。
会社側から見ると、報酬600万円と会社負担分85万円の合計685万円が経費になります。
※保険料率は都道府県と年齢(40歳以上は介護保険料が加わります)で変わります。正確な金額は、協会けんぽの保険料額表でご確認ください。
■ では、報酬を下げればいいのか
社会保険料が重いなら、報酬を極端に下げればいい。そう考えたくなります。実際、そういう提案を見かけることもあります。
ただ、下げると別の問題が出てきます。
ひとつは、将来の年金が減ること。厚生年金は納めた額に応じて受給額が決まります。今の保険料を減らすことは、将来の年金を減らすことでもあります。
ふたつめは、傷病手当金や出産手当金といった保障が薄くなること。一人社長には代わりがいません。病気で働けなくなったときの備えとしては、意外と大きな意味を持ちます。
みっつめは、会社に利益が残ること。報酬を下げれば経費が減るので、その分だけ会社の利益が増えます。中小法人の場合、所得800万円以下の部分にかかる法人税等の実効税率はおおむね23%前後、800万円を超えると33%前後になります。
つまり、報酬を下げても税金がゼロになるわけではなく、支払う先が個人から会社に移るだけです。
■ 決め方の手順
冒頭の社長には、まず生活費を書き出していただきました。家賃、食費、保険、教育費。ざっと計算して、月35万円は必要だとわかりました。
そこから、こういう順番で考えます。
1. 生活に必要な手取り額を出す
これが下限です。ここを割ると、結局会社から借りることになります。
2. 会社の年間利益を予測する
役員報酬を引く前の利益です。前期の数字をベースに、今期の見込みを足し引きします。
3. 報酬を引いた残りが会社の利益になる
ここに法人税等がかかります。逆に、報酬を上げすぎると会社が赤字になります。
4. 会社を赤字にしない水準で止める
ここが実務上のポイントです。融資を受ける予定があるなら、赤字決算は避けたい。銀行は決算書を見ます。少し利益が残る水準に置くほうが、後々の資金調達で有利になります。
この社長の場合は、手取り35万円を確保しつつ会社に利益を残す形で、月45万円に設定しました。
■ 金額を決めたあとにできること
報酬額が決まると、次の打ち手が見えてきます。
小規模企業共済は、掛金が全額所得控除になります。月7万円まで、年84万円。会社の役員でも、従業員20人以下の小規模な会社であれば加入できます。
iDeCoも同様に全額所得控除です。ふるさと納税の上限額も、役員報酬が決まれば計算できます。
順番としては、まず役員報酬を決める。次に控除枠を埋める。この順です。逆にはできません。
■ まとめ
・役員報酬は事業年度の開始から3ヶ月以内に決め、1年間は変えられない
・期の途中で増やした分は経費にならない
・金額を左右する最大の要因は社会保険料(労使合計でおおむね28〜30%)
・厚生年金は標準報酬月額65万円で頭打ち
・下げすぎると年金・傷病手当金が減り、会社に法人税がかかる
・生活費を下限に、会社が赤字にならない水準で決めるのが実務的
・報酬が決まってから、小規模企業共済やiDeCoで控除枠を埋める
役員報酬は、一度決めると1年間つき合うことになる数字です。それなのに、決める場面では相談相手がいない。多くの方が「なんとなく」で決めてしまうのは、そのためだと思います。
ご自身の会社の数字を見ながら「この金額でいいと思いますか」と聞ける相手がいるかどうかで、結果はずいぶん変わります。
レンタルオフィス・プラスエスは、税理士が運営しているレンタルオフィスです。メールでの経営相談は回数無制限。決算前のこういう相談こそ、気軽に投げていただきたいと思っています。
志木駅から徒歩3分。7日間の無料お試しも受け付けておりますので、まずは一度ご覧になってみてください。
自己紹介
竹澤 直樹
運営者プロフィール
税理士、コンサルタント
東京中央税理士法人 社員税理士(役員)WTA事業部長
合同会社ライズアビリティ 代表社員
フジ設計コンサルタント株式会社他、顧問先企業の取締役、監査役を歴任
高校卒業後に税理士を目指す。大原簿記専門学校卒業後、
田上会計事務所(現 東京中央税理士法人)で働きながら、
東亜大学大学院法学専攻(修士)を修了。
2015年税理士登録
趣味は、株式投資とゴルフ
土日は犬の散歩をしながら、リフレッシュしています。
猫もいますが、エサが欲しい時しか甘えてきません。
著書
「ひとつひとつていねいに会社の数字を学ぶ」
(かんき出版)
運営会社
- 会社名
- 合同会社 ライズアビリティ
- 代表者名
- 代表社員 竹澤直樹
- 住所
- 埼玉県志木市本町5-23-24 第3本吉ビル4階
- 法人設立年月日
- 令和1年6月4日
- 資本金
- 100万円