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NEW「うちは月いくら売れば赤字にならないのか」——損益分岐点の出し方

損益分岐点は「固定費 ÷ 粗利率」で出ます。必要なのはこの2つの数字だけで、計算そのものは5分で終わります。

先日、顧問先の社長からこんな質問をいただきました。

「うちは月いくら売れば、赤字にならないんでしょうか。なんとなく忙しくはしているんですけど、これで足りているのかどうかがわからなくて」

この質問は、業種を問わずよくいただきます。そして多くの場合、ご本人は自社の粗利率を把握しておられません。

答えを先にお伝えすると、こうなります。

損益分岐点の売上高は「固定費 ÷ 粗利率」です。ただし、この式で一番大事なのは割り算ではなく、粗利率を正しく出すことのほうです。

順を追って説明します。

 

■ ステップ1:粗利率を出す

粗利とは、売上から売上原価を引いた金額です。

・売上 − 売上原価 = 粗利
・粗利 ÷ 売上 = 粗利率

ここで多くの方がつまずくのが、何を売上原価に入れるかです。

売上原価に入れるべきなのは、売上に比例して発生する費用です。仕入れはもちろんですが、次のようなものも本来は売上原価に含めます。

・販売プラットフォームの手数料
・決済手数料
・商品の発送にかかる送料や梱包費
・案件ごとに発生する外注費

これらを販売管理費のほうに入れてしまうと、粗利率が実態より高く見えます。ネット販売をされている方だと、手数料が売上の10%を超えることも珍しくありません。この扱いひとつで、粗利率が数ポイント変わります。

逆に、家賃や役員報酬のように、売上がゼロでも発生する費用は売上原価には入れません。それは次のステップで扱う固定費です。

 

■ ステップ2:固定費を出す

固定費は、売上に関係なく毎月出ていくお金です。

・役員報酬(ご自身の給料です。忘れがちです)
・家賃、水道光熱費
・通信費、システム利用料
・保険料、リース料
・税理士報酬などの顧問料
・広告費のうち、毎月定額で払っているもの

数字は、直近6ヶ月から1年の実績を合計して、月数で割ってください。「だいたいこのくらい」で出すと、必ず低く見積もります。

 

■ ステップ3:割り算する

あとは割るだけです。

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 粗利率

粗利率30%、固定費が月90万円のサービス業なら、90万円 ÷ 0.3 = 300万円。月に300万円売れば、ちょうどトントンです。

 

■ 粗利率が低いと、景色が変わります

ここからが本題です。

ネット物販をされている方の数字を見ていて、粗利率が9%だったことがあります。仕入れが65%、プラットフォーム手数料が25%。残りが9%という構造です。

この方の固定費は月32万円でした。先ほどのサービス業(90万円)と比べれば、3分の1です。

ところが計算すると、こうなります。

32万円 ÷ 0.09 = 約355万円

固定費が3分の1なのに、必要な売上は300万円を超える。粗利率が低いというのは、こういうことです。

そして、この構造だと「売上を増やす」努力の効きが悪くなります。売上を100万円増やしても、手元に残るのは9万円だからです。

一方、粗利率を9%から12%に上げられたらどうなるか。

32万円 ÷ 0.12 = 約267万円

必要な売上が90万円近く下がりました。売上を増やすより、粗利率を3ポイント上げるほうが、この事業では効くわけです。

仕入れ単価の交渉、送料の見直し、手数料の安いチャネルへの移行、利益率の低い商品を扱わない判断。粗利率を上げる手は、売上を増やす手より地味ですが、効果は確実です。

 

■ よくある3つの落とし穴

1. 役員報酬を固定費に入れていない

一人社長に多いパターンです。自分の給料を計算に入れないと、損益分岐点が低く出ます。「黒字なのに生活が苦しい」という状態は、ここから生まれます。

2. 粗利率を感覚で使っている

「うちは3割くらい」という感覚と、実績から計算した数字が一致しないことはよくあります。試算表から実際に計算してみてください。感覚のほうが高いのが普通です。

3. 借入の返済を忘れている

これが一番怖い落とし穴です。

借入金の元本返済は経費ではありません。ですから損益計算書には出てきません。しかし、現金は確実に出ていきます。

先ほどの物販の例で、毎月15万円の返済があったとします。返済分まで賄うには、こう考えます。

(32万円 + 15万円)÷ 0.09 = 約522万円

355万円で黒字にはなります。しかし522万円売らないと、預金は減っていきます。「黒字なのにお金がない」の正体はこれです。

厳密には返済原資は税引後の利益なので、法人税等の分も上乗せして考える必要があります。ざっくり見るなら、返済額を1.3倍してから足すくらいの感覚で十分です。

 

■ 出したあと、どう使うか

損益分岐点は、一度出して終わりではありません。

おすすめは、月次の試算表を見るときに、実際の売上と損益分岐点を並べて書いておくことです。「今月は380万円、分岐点は355万円」と書くだけで、その月が良かったのか悪かったのかが即座にわかります。

それから、年に一度は計算し直してください。固定費は少しずつ増えます。家賃の改定、保険の追加、サブスクの積み重ね。気づくと分岐点が上がっています。

 

■ まとめ

・損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 粗利率
・販売手数料や送料は売上原価に入れる。販管費に入れると粗利率が高く見える
・役員報酬は固定費に必ず含める
・粗利率が低い事業は、売上を増やすより粗利率を上げるほうが効く
・借入返済がある場合は、返済額も加えて計算する
・毎月の試算表に、実績売上と分岐点を並べて書く

 

この計算自体は、電卓があれば5分で終わります。難しいのは、自社の粗利率と固定費を正確に拾い出すところです。会計ソフトの科目の入れ方ひとつで、答えが変わってしまうからです。

試算表を見ながら「この費用は原価と販管費のどちらですか」と聞ける相手がいると、この作業はぐっと早く終わります。

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自己紹介

竹澤 直樹

竹澤 直樹

運営者プロフィール

税理士、コンサルタント
東京中央税理士法人 社員税理士(役員)WTA事業部長
合同会社ライズアビリティ 代表社員
フジ設計コンサルタント株式会社他、顧問先企業の取締役、監査役を歴任

高校卒業後に税理士を目指す。大原簿記専門学校卒業後、
田上会計事務所(現 東京中央税理士法人)で働きながら、
東亜大学大学院法学専攻(修士)を修了。
2015年税理士登録

趣味は、株式投資とゴルフ
土日は犬の散歩をしながら、リフレッシュしています。
猫もいますが、エサが欲しい時しか甘えてきません。

ひとつひとつていねいに会社の数字を学ぶ

著書

「ひとつひとつていねいに会社の数字を学ぶ」
(かんき出版)

運営会社

会社名
合同会社 ライズアビリティ
代表者名
代表社員 竹澤直樹
住所
埼玉県志木市本町5-23-24 第3本吉ビル4階
法人設立年月日
令和1年6月4日
資本金
100万円