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NEW「そろそろ法人化ですか」と聞かれたら——判断の分かれ目は3つ

法人化の判断は「利益の水準」「消費税」「取引先」の3つで決まります。所得800万円が目安と言われますが、それだけでは決められません。

先日、顧問先の社長からこんな質問をいただきました。

「売上が伸びてきたので、そろそろ法人にしたほうがいいと言われるんです。でも何を基準に決めればいいのか、正直よくわかっていなくて」

この相談は本当によくいただきます。そして「所得が800万円を超えたら法人化」という話だけが独り歩きしていることも多いです。

答えを先にお伝えすると、こうなります。

800万円という数字は、3つある判断軸のうちの1つにすぎません。しかも近年は、消費税の事情が大きく変わりました。昔のセオリーがそのままでは使えなくなっています。

順を追って説明します。

 

■ 分かれ目1:利益の水準

まず、税率の構造を押さえます。

個人事業主にかかるのは、所得税、住民税、個人事業税です。所得税は累進課税で、所得が増えるほど税率が上がります。5%から始まって、最高45%。これに住民税10%が加わります。

一方、法人にかかる法人税等の実効税率は、中小法人であれば所得800万円以下の部分でおおむね23%前後、800万円を超える部分で33%前後です。累進の刻みが荒く、上限も低い。

所得が増えていくと、どこかで法人のほうが有利になります。その分岐点として語られるのが、課税所得800万円から900万円という水準です。

ただし、ここに注意が必要です。法人にしたお金は、自由に使えるわけではありません。会社のお金と個人のお金は別物になります。個人が使うには役員報酬として受け取る必要があり、そこには所得税と社会保険料がかかります。

ですから「法人のほうが税率が低いから得」という単純な話ではありません。実際に効いてくるのは次の2点です。

ひとつは、所得を分散できること。会社に利益を残す、配偶者に役員報酬を出す、といった配分ができます。

もうひとつは、給与所得控除が使えること。個人事業主には給与所得控除がありませんが、役員報酬として受け取れば適用されます。これは実質的に経費が増えるのと同じ効果があります。

 

■ 分かれ目2:消費税(ここが変わりました)

かつて、法人化の大きなメリットとして語られていたのが消費税でした。

消費税は、原則として2年前(基準期間)の課税売上が1,000万円を超えると納税義務が生じます。法人を新しく作れば基準期間が存在しないため、設立から最大2年間は免税になる。これが「法人成りで2年間免税」という定番の話でした。

ところが、インボイス制度が始まってから事情が変わりました。

インボイス発行事業者として登録すると、売上規模にかかわらず課税事業者になります。免税の恩恵は受けられません。

法人化しても、新しい法人でインボイス登録をすれば、初年度から消費税を納めることになります。「登録しなければいい」と思われるかもしれませんが、取引先が法人や課税事業者中心であれば、登録していないと取引そのものに影響します。

つまり、取引先の顔ぶれによって答えが変わります。

・取引先が事業者中心 → 登録せざるを得ない → 免税メリットはない
・取引先が一般消費者中心 → 登録しない選択肢がある → 免税メリットが残る

法人化を検討するときは、まずご自身の取引先の構成を確認してください。ここを見ずに「2年間免税だから」で判断すると、当てが外れます。

 

■ 分かれ目3:取引先と信用

3つめは、税金とは別の話です。

取引先によっては、法人としか契約しないところがあります。特に大手企業や官公庁の案件では、法人格が要件になっていることがあります。この場合、税金の損得に関係なく法人化が必要です。

融資も変わります。法人のほうが決算書の信頼性が高く評価されやすく、借入の選択肢が広がります。個人名義の借入を法人に引き継ぐ場面も出てきます。

人を雇う予定があるなら、法人のほうが採用しやすいのも事実です。

この3つめの軸は、数字で計算できません。しかし実務では、これが決め手になることがかなり多いです。

 

■ 法人化のコストも見ておく

メリットばかり語られますが、コストもあります。

設立費用:株式会社で20万〜25万円程度、合同会社で6万〜10万円程度。登録免許税と定款認証の費用が中心です。

均等割:法人住民税には、赤字でも払う部分があります。小規模な会社で年間およそ7万円。事業が止まっていても発生します。

社会保険:法人は、役員が1人だけでも社会保険への加入が義務になります。会社負担分が新たに発生します。個人事業で国民健康保険・国民年金だった方には、これが一番大きな変化になることが多いです。

事務コスト:法人の決算申告は個人の確定申告より複雑です。税理士に依頼する場合の費用も上がります。

これらを合計すると、年間で数十万円のコスト増になります。節税効果がこれを上回るかどうか。そこが最初の関門です。

 

■ 決めたあとに忘れがちなこと

法人化を決めた方から、あとになって「これを聞いていなかった」と言われることが多い項目を挙げておきます。

借入の名義:個人名義の借入は、法人に自動で移りません。金融機関との個別の調整が必要で、応じてもらえないこともあります。借入がある方は、法人化の前に銀行へ相談してください。

許認可:建設業、古物商、飲食業など、許認可が必要な事業は取り直しになります。個人の許可を法人が引き継ぐことは原則できません。空白期間が生じないよう、段取りが要ります。

契約の巻き直し:取引基本契約、事務所の賃貸借契約、リース契約、各種サブスクリプション。名義変更の手続きが必要です。

資産の引き継ぎ:在庫や設備を法人に移すには、売買か現物出資という形を取ります。ただ移せばいいというものではなく、金額の妥当性も問われます。

決算月:設立時に自由に決められます。繁忙期と決算作業が重ならない月にしておくと、後々楽です。

オフィスの扱いについては、副業を法人化するとき、オフィスはどうすればいい?という記事で別に書いています。登記住所をどうするかは、法人化とセットで考える論点です。

 

■ まとめ

・判断軸は「利益の水準」「消費税」「取引先と信用」の3つ
・課税所得800万〜900万円が一つの目安。ただしこれだけでは決まらない
・インボイス登録をすると、法人成りの2年間免税は使えない
・取引先が事業者中心か消費者中心かで、消費税の判断が変わる
・法人化には年間数十万円のコスト増がある(均等割、社会保険、事務コスト)
・借入名義、許認可、契約の巻き直しは早めに確認する
・決算月は設立時に自由に決められる

 

法人化は、一度やると簡単には戻せません。だからこそ、周りに勧められたタイミングではなく、ご自身の数字と取引先の状況を見て判断するべきものです。

そして判断に必要な材料は、実はそれほど多くありません。直近の所得、取引先の構成、今後1〜2年の見通し。この3つがあれば、かなりのところまで見えます。

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自己紹介

竹澤 直樹

竹澤 直樹

運営者プロフィール

税理士、コンサルタント
東京中央税理士法人 社員税理士(役員)WTA事業部長
合同会社ライズアビリティ 代表社員
フジ設計コンサルタント株式会社他、顧問先企業の取締役、監査役を歴任

高校卒業後に税理士を目指す。大原簿記専門学校卒業後、
田上会計事務所(現 東京中央税理士法人)で働きながら、
東亜大学大学院法学専攻(修士)を修了。
2015年税理士登録

趣味は、株式投資とゴルフ
土日は犬の散歩をしながら、リフレッシュしています。
猫もいますが、エサが欲しい時しか甘えてきません。

ひとつひとつていねいに会社の数字を学ぶ

著書

「ひとつひとつていねいに会社の数字を学ぶ」
(かんき出版)

運営会社

会社名
合同会社 ライズアビリティ
代表者名
代表社員 竹澤直樹
住所
埼玉県志木市本町5-23-24 第3本吉ビル4階
法人設立年月日
令和1年6月4日
資本金
100万円