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- 「売上が落ちたので、来月から役員報酬を下げたいんです」——期の途中で減額できる条件と、もう一つの選択肢
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業績が悪化しても、期の途中で役員報酬を下げて税務上認められるのは、「銀行や取引先との関係で、下げざるを得ない事情」がある場合に限られます。売上が落ちただけでは認められません。
先日、顧問先の社長からこんな質問をいただきました。
「竹澤さん、今期は売上が去年より3割ほど落ちていて、このままだと赤字になりそうなんです。役員報酬を来月から下げたいんですが、期の途中でも大丈夫ですか」
この社長は3月決算の会社を一人で経営していて、役員報酬は月50万円です。上半期が終わった時点の試算表で、今期は赤字の見込みになりました。自分の報酬を下げれば会社の赤字が少しでも減る、と考えての相談でした。
答えを先にお伝えすると、こうなります。
期の途中で下げることはできますが、「業績悪化」として税務上認められるための条件は厳しく、一人社長の会社では満たしにくいのが実情です。赤字が数百万円程度なら、報酬はそのままにして決算し、前期に払った法人税を取り戻す。そのうえで来期の期首から下げる。こちらのほうが安全なことが多いです。
順を追って説明します。
■ 役員報酬は、期の途中で変えないのが原則です
役員報酬を経費にするには、毎月同じ金額を払う「定期同額給与」にしておく必要があります。金額を変えられるのは、原則として期首から3か月以内だけです。決め方については、以前「役員報酬、いくらにすればいいですか」——一人社長が最初につまずく数字で書きました。
例外として期の途中の改定が認められるのは、役職が変わった場合などの「臨時改定」と、今回の「業績悪化による改定」の2つです。
■ 「業績悪化」と認められるのは、どんなときか
国税庁のQ&Aでは、次のような場合が例として挙げられています。
・株主との関係上、経営上の責任から減額せざるを得ない場合
・銀行と返済条件の見直し(リスケジュール)を協議する中で、減額せざるを得ない場合
・取引先などからの信用を保つために経営改善の計画をつくり、その中に減額が盛り込まれた場合
共通しているのは、「会社の外の誰か」との関係で下げざるを得ない、という点です。反対に、一時的な資金繰りの都合や、単に目標の売上に届かなかったという理由は、認められないとされています。
一人社長の会社では、株主は社長自身です。「株主との関係で」という理由は、まず使えません。残るのは銀行との協議か、経営改善計画のどちらかになります。
■ 認められなかったら、いくら経費にならないのか
冒頭の社長が、10月から月50万円を30万円に下げたとします。業績悪化と認められなかった場合、経費にならないのは「減額した分×減額前の月数」です。
(50万円 - 30万円)× 6か月(4月〜9月)= 120万円
下げたあとの30万円が毎月の「本来の金額」とみなされ、それより多く払っていた前半の差額が経費から外れる、という考え方です。赤字を減らすつもりで下げたのに、経費が120万円減って税金の計算が重くなる。これが一番避けたい結果です。
■ もう一つの選択肢——前期の法人税を取り戻す
そこでもう一つの方法です。報酬は下げずにそのまま決算し、赤字を確定させます。前期に法人税を払っていれば、今期の赤字を前期に戻して、払った法人税の一部を返してもらえます。「欠損金の繰戻還付」という制度で、資本金1億円以下の中小法人が使えます。
還付される額 = 前期の法人税 × 今期の赤字 ÷ 前期の所得
たとえば前期の所得が400万円で法人税を60万円払い、今期が200万円の赤字なら、60万円 × 200万円 ÷ 400万円 = 30万円が戻ります。
条件は、前期と今期の両方で青色申告をしていること、今期の申告を期限内に出し、還付請求書を一緒に提出することです。戻るのは法人税と地方法人税だけで、住民税や事業税は戻りません。
前期も赤字だった会社や、前期に法人税を払っていない会社は、この還付は使えません。その場合でも、今期の赤字は翌期以降10年間繰り越して、将来の利益と相殺できます(欠損金の繰越控除)。報酬を下げずに赤字で決算しても、その赤字は無駄にはならないということです。
なお、還付は申告してすぐに振り込まれるわけではありません。税務署の確認を経て、数か月かかることもあります。資金繰りの計画には、還付金を当てにしすぎないようにしてください。
この話をしたところ、社長は「下げたほうが得だと思っていました」と驚いていました。下げなければリスクはなく、赤字の分だけ税金が戻る。そして来期は期首から3か月以内に、堂々と金額を下げられます。
■ それでも下げるなら、残しておくもの
報酬を下げれば、社長個人の所得税・住民税が減り、社会保険料も下がります(社会保険料は、原則として下げてから4か月目に改定されます)。資金繰りが本当に苦しいなら、減額を選ぶ意味はあります。その場合は、次の書類を残してください。
・減額を決めた株主総会(または取締役会)の議事録。理由を具体的に書く
・業績の悪化がわかる月次の試算表や資金繰り表
・銀行との協議の記録、または簡単なものでも経営改善計画(「報酬を下げれば来期は黒字にできる」という中身)
経営改善計画は、立派なものである必要はありません。今期の見込み、来期の売上と経費の見通し、そして「報酬をいくらに下げれば来期は黒字にできるか」を1枚にまとめたもので十分です。ただし、銀行などから求められたら見せられる内容にしておくことが前提です。
そして、下げたあとは毎月同じ金額を払い続けます。途中でまた戻すと、別の問題が出てきます。
■ まとめ
・役員報酬を変えられるのは、原則として期首から3か月以内
・期の途中の減額が認められるのは、銀行や取引先など外部との関係で下げざるを得ない場合
・売上が落ちた、資金繰りが一時的に苦しい、だけでは認められない
・一人社長の会社では「株主との関係」は理由になりにくい
・認められないと「減額分×減額前の月数」が経費にならない
・下げずに決算し、欠損金の繰戻還付で前期の法人税を取り戻す方法がある
・繰戻還付は青色申告と期限内申告が条件。住民税・事業税は戻らない
・減額するなら、議事録・試算表・改善計画を残す
業績が落ちたとき、自分の報酬を下げようと考えるのは、経営者として自然なことです。ただ、税金の仕組みの上では、下げ方とタイミングで結果が大きく変わります。
赤字の見込みが出た時点で、「下げるか、そのまま決算するか」を数字で比べておくと、慌てずに決められます。来期の報酬をいくらにするかも、その比較の中で見えてきます。
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自己紹介
竹澤 直樹
運営者プロフィール
税理士、コンサルタント
東京中央税理士法人 社員税理士(役員)WTA事業部長
合同会社ライズアビリティ 代表社員
フジ設計コンサルタント株式会社他、顧問先企業の取締役、監査役を歴任
高校卒業後に税理士を目指す。大原簿記専門学校卒業後、
田上会計事務所(現 東京中央税理士法人)で働きながら、
東亜大学大学院法学専攻(修士)を修了。
2015年税理士登録
趣味は、株式投資とゴルフ
土日は犬の散歩をしながら、リフレッシュしています。
猫もいますが、エサが欲しい時しか甘えてきません。
著書
「ひとつひとつていねいに会社の数字を学ぶ」
(かんき出版)
運営会社
- 会社名
- 合同会社 ライズアビリティ
- 代表者名
- 代表社員 竹澤直樹
- 住所
- 埼玉県志木市本町5-23-24 第3本吉ビル4階
- 法人設立年月日
- 令和1年6月4日
- 資本金
- 100万円